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『茨木のり子詩集』 谷川俊太郎選

IMG_3174.jpeg 青春を戦争の渦中で過ごした女性の、悔しさと未来への夢。スパッと歯切れのいい言葉が随所に出てくる詩、主張のある詩、論理の詩。

 素直な表現で、人を励まし、奮い立たせてくれる、“現代詩の長女”・茨木のり子(1926~2006年)。現代の女性詩人の中で最も人気のある一人だ。谷川俊太郎があまたある詩の中から厳選した一冊。

 一番好きな詩は、「わたしが一番きれいだったとき」。中学校の国語教科書に採録されているので、ご存じの方も多いだろう。

わたしが一番きれいだったとき
街々はがらがら崩れていって
とんでもないところから
青空なんかが見えたりした

わたしが一番きれいだったとき
まわりの人達が沢山死んだ
工場で 海で 名もない島で
わたしはおしゃれのきっかけを落としてしまった

わたしが一番きれいだったとき
だれもやさしい贈物を捧げてはくれなかった
男たちは挙手の礼しか知らなくて
きれいな眼差だけを残し皆発っていった

わたしが一番きれいだったとき
わたしの頭はからっぽで
わたしの心はかたくなで
手足ばかりが栗色に光った

わたしが一番きれいだったとき
わたしの国は戦争に負けた
そんな馬鹿なことってあるものか
ブラウスの腕をまくり卑屈な町をのし歩いた

わたしが一番きれいだったとき
ラジオからジャズが溢れた
禁煙を破った時のようにくらくらしながら 
わたしは異国の甘い音楽をむさぼった

わたしが一番きれいだったとき
わたしはとてもふしあわせ
わたしはとてもとんちんかん
わたしはめっぽうさびしかった

だから決めた できれば長生きすることに
年とってから凄く美しい絵を描いた
フランスのルオー爺さんのように


「首つり」も、興味深い詩だ。町で唯一の医師だった彼女の父は、警察からの知らせで、検死に行かなければならなかった。娘の彼女は後についていった。父は強いて止めなかった。

海べの松林の ほどよい松の木の
ほどよい枝に 首吊男は下っていた
そして頼りなげにゆれていた
よれよれの兵隊服で かすかな風に
てるてる坊主のようにゆらめいて
彼は最初海へ入って死のうとしたのだ
ズボンが潮で べとついている
ポケットには ばら銭がすこうし
ゆうべ町の灯は一杯ついていたろうに
声をかけられる家は一軒としてなかったのか……

 母は、首吊男を見てきた彼女を怒り、塩をぶっかけた。「娘だてらに!」と叫んで。

 その頃の彼女は、何でも見ておきたい意欲で、はちきれんばかりだったのだ。誰が彼女を止められただろう。

 2014年4月、世田谷文学館に「茨木のり子展」を見に行った。谷川俊太郎が撮影した、彼女のポートレートがたくさん展示してあった。

 詩稿、草稿、創作ノート、日記、「櫂」の同人をはじめとした詩人たちとの書簡、先立った夫のために書かれ、没後刊行された『歳月』の遺稿など、貴重な資料を通して、茨木のり子の詩作世界をひもとく展示会だった。

 驚いたのは、最愛の夫のために作った料理ノートが残されていたこと。雑誌からレシピを切り抜いたもの、自分でイラストを描いたものなど、その数膨大。女性として日常を大切に暮らしたことがわかるものだった。
 
 最愛の夫を亡くした翌年、50歳で韓国語を学び始めた彼女は、隣国とその文化への関心を数々の著作に記し、14年後には韓国現代詩の翻訳刊行を果たす。

 大きな喪失感から自ら歩を進め、凛として生きた彼女の詩と文章は、生きることに勇気を与えてくれるものとなった。
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プロフィール

カエルのロビン

Author:カエルのロビン
フリーランスの記者&編集者。星野源と加瀬亮が好きといえばオシャレだと思っている。何歳からアラフィフか母親と協議中。数年分の旅行記と食べ歩き日記を順次アップしていきますので、よろしくお願いいたします。
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