FC2ブログ

記事一覧

太宰治『葉桜と魔笛』

IMG_3171.jpeg “太宰ファン”と呼べるほど、読んではいないが、一番好きなのは、クラフト・エヴィング商會(クラフト・エヴィングしょうかい)という装丁家がお薦めの『葉桜と魔笛』という短編小説。『新樹の言葉』(新潮文庫刊)に納められている。

「桜が散って、このように葉桜のころになれば、私は、きっと思い出します」と、主人公である老夫人は語り出す。

 35年前、20歳だった主人公は、18歳の病弱な妹と、明治時代の中学の校長で、厳格な学者気質の父の三人で暮らしていた。

 妹は死期が近く、医者からは「百日以内」と言われていた。そんな中、主人公は、妹宛に30通のまとまった手紙をタンスに見つけ、妹に好きな男性がいることを知る。
 
 手紙の最後には、死が近いことを理由に男性が妹を捨てたことが書かれていた。

 妹を不憫に思った主人公は、その男性のふりをして、妹に手紙を書く。しかし、その30通の手紙は、寂しさをまぎわらすために妹自身が自分に当てた手紙だった。

 妹が書いた自作自演の手紙だということがわかり、恥ずかしやら、切ないやらの思いをする姉と妹。

 しかし、その時、主人公が手紙に書いていた「六時に庭の外で口笛を吹く」ということが現実に起きる。「お庭の葉桜の奥から聞こえてくる不思議なマアチ」の口笛。

 時計を見ると六時。二人は、言い知れない恐怖を感じながら、口笛に耳を傾けていたが、その三日後、妹は他界する。

 主人公は、年を取ったいま、あの口笛は父の仕業だったのではないかと考える。けれど、すでに父も亡くなり、確かめようもなかった——。

 口笛を吹いた人物を父と考える説と、妹に本当に男性がいて、その人が吹いたという説がある。

「葉桜と魔笛」というタイトルから、妹に死をもたらした口笛は、その男性が吹いたものだったと思いたい。

 そうすることで、病気に負けた女ではなく、恋に生きた女として死ぬことができるからだ。

 私も、妹を32歳でガンで亡くしている。どんどん死期が近づいてくる恐怖は言い知れない。

 妹には、結婚間近のフィアンセがいた。シスコンではないが、嫉妬を覚えたのは確かだ。54歳で亡くなった父も、厳格だった。

 15歳で父と冷戦状態になり、亡くなる23歳まで、目も合わせなかったし、口も聞かなかった。

 死が近づいたある日、たったひとつ言われたのは、「(妹は)強い子に見えて、弱いところがあるから、おまえが守ってやれ」。弱々しくベッドに横になった父は私にそう言った。

 私は、この小説の主人公のように、妹を思いやり、守ることができたのだろうか。
関連記事

プロフィール

カエルのロビン

Author:カエルのロビン
フリーランスの記者&編集者。星野源と加瀬亮が好きといえばオシャレだと思っている。何歳からアラフィフか母親と協議中。数年分の旅行記と食べ歩き日記を順次アップしていきますので、よろしくお願いいたします。
★リンクフリーです。

カレンダー

03 | 2024/04 | 05
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 - - - -