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飲まなくてよかったんだ!

 今日、初めて知った。あたしは、乳がんのホルモン調整薬「タモキシフェン」を飲んじゃいけなかったんだ。女性ホルモンは乳がんのエサになり、再発の可能性を高める。なので、タモキシフェンを飲んで、女性ホルモンが出過ぎないようにしていた。

 乳腺内分泌外科の主治医に何気なく、「あと何年、タモキシフェンを飲むんでしたっけ?」と聞いた。「乳がんの手術をしたのが、8年前だから、あと2年だね」。

「一ヵ月くらいダウンすることがあるんですよね」と初めて、主治医に言った。先生が慌てたように言った。「キミは、タモキシフェンを飲んじゃダメだ!」。

「えっ!」。「タモキシフェンは、強い薬で、いろいろと副作用が多い。実際、飲んでいるがためにダウンする患者さんも多いんだ」。

「以前は、10年飲むべきという制度だったけれど、キミも知っての通り、5年と10年が選べるようになった。研究の結果、5年と10年飲むのでは、差がないことがわかったからね」。

 あたしは、『身体のいいなり』(内澤旬子・著/朝日新聞出版/2010年刊)というエッセイを読んでいて、イラストルポライターの内澤さんがタモキシフェンのさまざまな副作用に悩まされ、飲むのを止めた結果、乳がんが再発し、両乳房を全摘することになったことを知っていた。

 タモキシフェンは副作用が多いけれど、飲むのを止めて、再発したらいやだなと思っていた。タモキシフェンのせいで、ダウンしているんだと薄々感じてはいたけれど、20年の付き合いがある心療内科の主治医は、「タモキシフェンを止めたら、ダウンしなくなるというのは、ボクは疑問だね」というひと言で、10年飲むことを選んだ。

 あたしは30歳で、過労とうつ病で倒れて以来、抗うつ薬や安定剤を数種類飲んでいる。抗うつ薬や安定剤は、うつ病が再発しないようにする保険で、実際、うつ病はほぼ完治している。

 しかし、心療内科の主治医は、石橋を叩いてわたるタイプで、これまた副作用の多い強い薬を処方していた。当然、副作用も多く、一ヵ月ほどダウンするのは、心療内科の薬のせいかなとも思っていた。

 なので、付き合いが浅く、ころころと担当医が変わる乳腺内分泌外科の主治医に「タモキシフェンを飲んでいるので、一ヵ月ほどダウンするのでしょうか」と聞けずにいた。

 一ヵ月ほどダウンする。みなさんには、想像できるだろうか。何の前触れもなく、朝、起きようとしたら、猛烈にだるくて、起き上がれない。

 お腹が空いても、家の前のコンビニまで、パジャマから服に着替えて、食料を買いに行くこともできない。我が家は、父と妹が夭逝(ようせい・若くして死ぬこと)して以来、母と二人暮らしだ。

 今年77歳になる母に死なれ、ひとりになったら、この家を切り盛りしていく自信がない。料理を作るどころか、コンビニ弁当も買いに行けない。掃除はおろか、ゴミ出しもできない。いずれ、我が家がゴミ屋敷になることは目に見えていた。

 ダウンすると、死ぬことしか考えていなかった。母に死なれたら、自殺しようと思っていた。本棚の地震止めの突っ張り棒に電気コードをかけて、首を吊る。背が高いから、足が床について、自殺未遂で死にぞこなう可能性は大ありだ。

 親戚にも、自殺未遂は多大な迷惑をかけるので、ためらわれるが、ゴミ屋敷で無様な生き様をさらすより、死を選ぶつもりでいた。ダウンするとベッドに横になりながら、どうやって死ぬかばかり考えていた。

 華厳滝(けごんのたき)、東尋坊(とうじんぼう)、樹海(じゅかい)……。古いマンションで、オートロックのないところを見つけ、忍び込み、屋上から飛び降りてみようか。

 それが、あーたどうよ。タモキシフェンを飲まなくてよかったんだなんて。何年、損した? 何年、苦しんだ? 乳がん手術が8年前。タモキシフェンも、8年前から飲み始めた。飲み始めてすぐに5年と10年を選べますよと言われたから、少なくても3年は人生を無駄にしている。

「あと何錠、タモキシフェンが残っている?」と乳腺内分泌外科の主治医が聞いた。「20錠とちょっとです」。「じゃあ、それを飲み切ったら、タモキシフェンは飲まなくていい。子宮筋腫を持ってるみたいだけど、タモキシフェンは子宮筋腫も大きくするからね」。

 今日、大学教授とフレンチでデートだった。この話をすると、「セカンドオピニヨンも大事だよ」と言われた。そーだよねー。ひとりで、悶々(もんもん)と苦しんでるくらいなら、別の心療内科にかかって、意見を求めるべきだったんだ。

 ぬいぐるみのロビンちゃんに言われた。「ママちゃん、また大ドジ、ぶっこいちゃったね」。「キミのママちゃんはね、ドジ子さんなんですよ。あたしは、宗教は信じてないけど、なぜか輪廻は信じてるから、キミのことを来世で産んであげようと思っているけど、ドジ子さんだから、何をしでかすかわからないよ(笑)」。

「かっこが違うと、ずいぶん変わるもんだね」。急いで駅に向かっていると、ご近所のお年寄りの大工さんが驚いたように言った。いつもジーンズを履き、眉毛も書かずにすっぴんで買い物に出かける姿を見ている。イメージと違うワンピースを着ていたから、そう言ったのだろう。「今日、デートなんです」とあたしは、うれしそうに言った。

 大学教授に言うと、「もっと違う言い方があるだろうよ。今日は素敵だねとかさ」と笑った。「そこは、職人気質(しょくにんかたぎ)の人だから」とあたしも笑った。
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カエルのロビン

Author:カエルのロビン
フリーランスの記者&編集者。星野源と加瀬亮が好きといえばオシャレだと思っている。何歳からアラフィフか母親と協議中。数年分の旅行記と食べ歩き日記を順次アップしていきますので、よろしくお願いいたします。
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